「お父さん、年金っていくらもらっているの?」
「貯金はどれくらいあるの?」
施設への入居を考え始めたとき、避けては通れないのが「お金」の話です。
しかし、いざ聞こうとすると「親を年寄り扱いしているようで気が引ける」「財産を狙っていると思われたくない」と、言葉を飲み込んでしまう方は多いものです。
厚生労働省の調査などを見ても、多くの家庭で「介護が必要になるまで、親の正確な資産を知らなかった」という現実があります。しかし、いざという時に予算がわからなければ、最適な施設を選んであげることもできません。
今回は、親御さんの自尊心を傷つけず、スムーズに「お金の本音」を聞き出すための具体的なステップと、話し合いのコツを解説します。
1. なぜ「お金の話」は、こんなに難しいのか?
まずは、なぜ話しにくいのか、その心理的なハードルを理解しておきましょう。
- 親側の心理: 「子供に管理されるのが怖い」「自分の経済力を知られるのは恥ずかしい」「まだしっかりしていると思いたい」
- 子側の心理: 「死後のことを考えているようで不謹慎」「お金に困っていると思われたくない」
こうした心理的な壁がある中で、いきなり「通帳を見せて」と言うのは逆効果です。「お金の管理」ではなく「将来の安心」のための対話であることを共有するのが、最初の一歩になります。
2. 自然に切り出すための「3つのきっかけ」
「今日はお金の話をしよう」と身構えるのではなく、日常の会話の流れで切り出すのがコツです。
① 「自分の将来」をネタにする
「実は、自分たちの老後のためにFP(ファイナンシャルプランナー)に相談したんだ。そしたら、親のことも含めてシミュレーションが必要だって言われて……」と、自分の都合を理由にします。 「自分たちの準備を始めたから、参考に教えてほしい」というスタンスなら、親御さんもアドバイスをくれる立場として話しやすくなります。
② 世間のニュースや「施設見学」をきっかけにする
「最近、テレビで介護費用の特集をしていたよ」「友達が親の施設探しで苦労していたんだけど、うちはどうかな?」と、外部の話題から入ります。 あるいは、「素敵な施設を見つけたから、もし入るとしたらいくらくらいなら無理がないか一緒に考えたいんだ」と、「具体的に動くための準備」として提案します。
③ 「ねんきん定期便」を一緒に見る
誕生月などに届く「ねんきん定期便」は絶好のチャンスです。「これ、見方が難しいよね。一緒に確認してみない?」と、書類を整理する名目で現在の受給額を確認しましょう。
3. 話し合いで絶対にやってはいけない「NG言動」
話し合いが始まったら、以下の言動には注意しましょう。せっかく開いた親の心が、一瞬で閉じてしまう可能性があります。
- 「いくらあるの?」と直球で聞く: 尋問されているような気分にさせてしまいます。
- 「年金だけじゃ足りないよ」と否定する: 親が一生懸命働いて得た権利を否定することになり、自尊心を深く傷つけます。
- 「私たちが管理するから」と主導権を奪う: 「自由を奪われる」という恐怖心を与えてしまいます。
プロのワンポイントアドバイス: 大切なのは「主語を親にすること」です。「お父さんが、最後まで自分らしく、好きなものを食べて暮らせる場所を探したいから、予算を教えてほしいんだ」という伝え方を意識してみてください。
4. 最低限確認しておくべき「3つの数字」
話し合いの中で、以下の3点だけでも把握できれば、施設選びの解像度は一気に上がります。
- 月々の年金受給額(手取り): これが毎月の支払いのベースになります。
- 預貯金の総額: 入居一時金や、急な入院・手術費に充てられる金額です。
- 加入している保険の内容: 介護保険(民間のもの)や医療保険の給付金が出るかどうか。
5. 一度で決めようとせず、何度も「小出し」にする
お金の話は、一度の話し合いで完結させる必要はありません。 最初は「将来どうしたいか」という希望を聞くだけ。次は「今の生活費はどれくらいか」を聞く。その次に「もしもの時の予算」というように、段階を踏んでいきましょう。
時間がかかるかもしれませんが、「時間をかけて話し合った」という事実そのものが、後に施設を決める際のご本人の納得感に繋がります。
まとめ:お金の話は「最高の親孝行」への準備
親御さんの資産状況を知ることは、決して財産を把握することではありません。それは、「限られた予算の中で、最大限に幸せな老後をプレゼントするためのリサーチ」です。
早めに話し合いをしておくことで、いざ介護が必要になったときに慌てて高い施設を選んでしまったり、逆に安すぎて希望に合わない場所を選んでしまったりするリスクを避けられます。
「お金の話はしにくい」という壁を乗り越えた先には、きっと「これで安心だね」という、ご本人とご家族の深い絆が待っています。
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