はじめに
WHО(世界保健機関)が2022年に調べた平均寿命世界ランキングで我が日本は第1位となっています。実は昭和50年代半ばには既に世界一の長寿国になっており、21世紀を迎えた今日においてもその座に留まっています。
人生100年時代と言われて久しい日本。超高齢化社会となって社会保障費の増大、介護の問題等、様々な課題もありますが一方、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を示す健康寿命も世界一となっています。
健康を維持するのに重要な要素のひとつである「睡眠」。寝不足が体調の変化に大きな影響を与えるのは皆さんも経験されているのではないでしょうか。ここでは高齢者の睡眠の特徴や不眠の影響について詳しく触れてみたいと思います。
高齢者の睡眠の特徴
お歳を召すと、自然に体力が衰え、髪が白くなったり視力が落ちたりするなど身体的な影響が自然と現れてきます。それと同じように「睡眠」にも変化が現れてきます。
お年寄りが「早寝早起きになった」「朝早く目が覚める」と言っているのを耳にしませんか。「お年寄りは早起き」という言葉もよく聞くのではないでしょうか。これは決して年を取ったことの比喩ではありません。「体内時計」が加齢によって変化したことで起きる状態です。
ただしこうした早朝の覚醒自体は病気ではありませんので早起きした時間を有意義に活用できると前向きに捉えて構わないと思われます。
もう一つの変化に睡眠が浅くなることがあげられます。睡眠には「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の二種類があり、「浅い眠り=レム睡眠」「深い眠り=ノンレム睡眠」に大別されます。健康な成人の場合、睡眠の前半は熟睡し、後半はレム睡眠が多くなりますが加齢に伴って徐々に睡眠が浅くなり、70代になると中途覚醒することが多くなります。そのため尿意やちょっとした物音で何度も目が覚めてしまうのです。
不眠症の特徴
高齢者の多くが不眠の症状を抱えていると言われています。不眠の訴えが増えるのが60歳前後で、高齢になるにつれ割合が高くなり、特に女性に多く現れるという特徴があります。「不眠」と言っても症状は人それぞれで複数のタイプに分類されます。ここでは4つのタイプを紹介します。
①入眠障害 | 「寝付くまでに長い時間がかかってしまう状態」 不安や悩み事などの精神的なことが原因と言われています。 |
②熟眠障害 | 「たくさん寝ていても、ぐっすり寝たという実感がない状態」 睡眠中に症状が出る病気であることが多く、例えば寝ている間に足がピクピク動いたり、呼吸が止まるという症状を伴っているケースもあります。 |
③中途覚醒 | 「目が覚めてしまい、その後に寝付けなくなる状態」 高齢者に多く、頻尿や体の痛みなどが目が覚める原因と言われています。 |
④早朝覚醒 | 「起きようとしていた時間より2時間以上早く起きてしまう状態」 高齢者に多く現れるタイプの不眠です。高齢者は体内時計が早まっているのが特徴にあり、また血圧や体温の状態なども早朝覚醒に繋がっています。 |
原因・影響
高齢者の不眠の原因とされる代表に「日中の活動量の低下」があげられます。体力の低下や人付き合いの減少など、加齢や周辺環境による活動量の減少は睡眠に大きな影響を与えてしまいます。昨今のコロナ禍においては老若男女問わず、その傾向が強く現れていると言われています。睡眠時間が短くなると眠れないことに不安を感じ、イライラや焦りなどの精神的な影響も出て、余計眠れなくなる悪循環も引き起こします。また高血圧や糖尿病などの生活習慣病も不眠の要因とされています。
不眠が続くと高血圧や糖尿病の生活習慣病のリスクが上がり、また免疫力も低下して風邪などの病気にかかりやすくなる他、食欲に関わるホルモンのバランスが乱れて肥満になる恐れもあります。鬱病・高血圧になる可能性は2倍、糖尿病になる可能性は2~3倍ほどになり、こうした基礎疾患があると心筋梗塞や・脳梗塞などの重篤な病に繋がる可能性があるので不眠には注意が必要です。
不眠の改善
高齢者の不眠に対して医療機関から睡眠薬を処方されることがあります。これは決して悪い選択肢ではありません。自分の症状をしっかり医師に伝えて、自分に合ったお薬を処方していただくことも良好な睡眠に繋がります。もちろん、薬に頼りすぎずに生活習慣を見直してみることも重要です。ここでは「今日からでもできる不眠対策」を紹介します。
「起きたら太陽光を浴びる」
太陽の光を浴びると体内時計がリセットされて夜に自然と眠くなるサイクルが整います。
「朝の光を避ける」
季節によってまちまちですが、春~夏にかけて早朝から明るくなり目が覚めてしまいます。遮光カーテンなどを活用されるのも良いかと思われます。
「眠くないのに早い時間から寝床に入らない」
やることが無く、暇だから「寝る」という行動は不眠の原因となります。質の高い睡眠を可能とするには「眠くなったら寝る」ことがとても大切です。
「睡眠にメリハリをつける」
お昼寝は体力の回復に実に有効な睡眠ですが、逆に夜間眠れなくなる恐れがあります。30分以内の短時間とされるのが良いでしょう。
「夕方以降は激しい運動をしない」
意外と思われるかも知れませんが激しい運動は不眠の原因とされています。「疲れすぎて眠れない」とよく聞きますが、まさにこれにあたります。激しい運動を行うと興奮状態が続いて目が冴えてしまうので、夕方以降の運動は控えたほうがよろしいかと思います。
「寝る前にカフェインを摂らない」
コーヒーやお茶にはカフェインという覚醒物質が入っています。嗜好品として大変優れた飲み物ですが、寝つきが悪くなる原因となりますので寝る前には摂らない方がよろしいでしょう。
「禁煙」
様々な病気を誘発させる「タバコ」ですが、睡眠にも影響を与えます。タバコに含まれているニコチンという物質には強い覚醒作用があります。
「テレビ・ゲーム・スマホは寝る一時間前まで」
40歳~50歳代で親御さんの介護をされている方も多くいらっしゃると思います。この世代に限らずですが、昔から長時間ゲームをすると眠れなくなると言われています。「ゲームは1日1時間」という大変有名なフレーズをご存じの方も多いかも知れません。現代ではそれはスマホに置き換えることが出来ます。
テレビやゲーム、スマホは脳を刺激するので、寝る直前まで見ていると眠りづらくなってしまいます。これらを視聴するのは寝る1時間前までにされたほうが良いでしょう。