フレイルとは
最近、テレビや新聞などの報道で「フレイル」という言葉をよく聞きませんか?新型コロナウイルスの発生から一般の方からも注目され始めました。感染対策として人の集まる場所に近寄らないことが推奨され、不要不急の外出を自粛する社会情勢が形成されたことで「フレイル状態」となる高齢者が激増したことがその背景にあります。さて、そもそもフレイルとはいったいどの様な状態のことを意味するのでしょう。実はこれは病気ではありません。海外の老年医学の用語である「フレイルティ」を語源としていて、日本語に訳すと虚弱・老衰・脆弱を意味しますが、かみ砕いて表現すると「加齢によって心身が老い衰えた状態」のことを指します。
超高齢化社会となった我が国においては、介護状態に陥ることを避けるため、介護予防もしくは自立支援という言葉が新たに生まれ、元気なうちから活動的な生活を送ることが進められ介護保険制度においてもサービス体系化されています。しかし、核家族や社会の空洞化、地域との繋がりの希薄化などの社会構造変化によってフレイルになりやすい環境は改善しているとは言い難く、大きな社会問題になりつつあります。
介護を必要とする前段階と言われるフレイル。しかし、過度に心配する必要はありません。生活習慣の改善や適切なアプローチを行うことで健康的な生活を取り戻すことは可能です。
フレイルの原因
フレイルになる原因は多岐にわたります。歳を取ることで心身が変化し、また社会や環境が重なり合って起こりますが、フレイルになる要因として主に3つの要素が考えられています。
身体的な要因
身体的に弱ることが要因となりフレイルを引き起こします。高齢者は活動量が減りやすく、それによって筋肉量も落ちフレイル状態に陥りやすくなります。
「ロコモ」と呼ばれる運動器に障害をきたしたり、口腔機能の低下に伴う低栄養状態も例としてあげられます。
心理的・認知的要因
鬱病や認知症など精神・心理的に衰弱してしまう病もフレイルの要因となります。こうした疾患は軽度な状態だと発見しづらく、注意を要します。
社会的要因
昨今のコロナ禍における閉じこもり生活から発生するフレイルの要因がこれにあたります。社会との繋がり、他者との関りが減少することにより活気や活力を失ってしまうのです。また定年退職などで現役時代を終え社会との関りが一気に減少することで閉じこもりとなる高齢者も多く、その原因に数えられています。
フレイルの具体的な状態
フレイルが引き起こす状態像はいくつかありますが、ここでは厚生労働省のガイドラインから代表的な状態像を抜粋し紹介いたします。
体重の減少
年間4.5㎏または5%以上(半年で2㎏以上)の体重減少
※ダイエットなどの手段ではなく、本人が意図しない体重の減少
筋力の低下
高齢になると自然に筋力が衰えていきますが、運動量の低下によっても筋肉が衰えてしまうケースもあります。筋力の低下はフレイルの大きな特徴とされています。握力はフレイル状態であるかどうかを測る基準ともなっています。
男性28㎏未満女性18㎏未満
歩行速度
筋肉の量の変化は歩行の速度と一対の関係性があります。以前より同じ距離を歩いているのに時間がかかるように感じたら注意が必要です。
指標:通常の歩き方で1.0/秒未満
疲労感
疲れやすくなり、活動する気力が無くなってしまうことを意味します。もちろん単なる疲労ではなく病気か要因である場合もあるので、強く疲労を感じた場合には注意が必要です。
例:週の半分以上、何をするにも面倒だと感じる
身体活動量の低下
意欲が低下したり、抑うつ状態になると、身体の活動量の低下を招くことがあります。明らかに活動の量が減っている場合には注意が必要です。
厚生労働省も「介護予防のための生活機能評価に関するマニュアル(改訂版)」の中に、フレイルを判断するためのチェックリストを作成しています。この様式は地域包括支援センターにおいても要支援認定を受けている方の状態を確認するうえで活用されています。
フレイルを予防するには
フレイルになるのは何も特別なことではありません。誰しもがなりうるリスクを持っています。健康的な生活を送っている高齢者であっても加齢による影響は避けられないからです。大切なのはそうした状態になることを「遅らせること」つまり予防が大切なのです。ここではフレイルを予防するにあたっての考え方を紹介します。
適度な運動
運動不足はフレイルを招きます。当然それを防ぐには適度に運動を行うことがとても有効となります。フレイルは生活習慣病を予防する対応と殆んど一緒と言っても過言ではありません。体操、ウォーキング(散歩)、ジョギングなど定期的に運動を行う習慣を作りましょう。
バランスの良い食事
フレイルを引き起こす要因として低栄養があげられます。お歳を召すと食が細くなってしまうのは自然なことではありますが、栄養が偏ってしまうことは大きな問題となります。バランスの良い食事に心がけましょう。
お口のケア
単純に加齢によって食が細くなるだけではなく、お口の中、つまり歯が原因で食事を摂ることが難しくなる場合も考えられます。フレイルの予防には歯をケアすることも重要です。歯の健康を保つことは、栄養を摂取するだけではなく食事という行為を楽しむことにも繋がります。
病気への対策
お年を召すと何らかの持病を持っていることは一般的ですが、高齢者は免疫が低下しているので持病以外の感染症にも注意が必要です。もし持病を持っているのならば、その病気への対処(治療など)をしっかり行って、症状を悪化させないこともフレイル予防には重要です。
まとめ
令和4年夏の甲子園で東北に初の大優勝旗をもたらした仙台育英高校の須江航(すえわたる)監督は、優勝インタビューの中でコロナ禍の高校生たちの思いを代弁し「青春ってすごく密なので」という感動的なフレーズを残しました。
高齢者にとっても、その人生において人と関わり、社会との繋がりを持つことはとても大切なことで、健康的な生活となるだけではなく意欲を保ち続けるうえでも重要なことであります。昨今、フレイルが着目され社会問題として取り上げられているのもこうした背景が原因として考えられているからに他ありません。社会との接点を失うことでの喪失感はフレイルを更に悪化させ、数年後には要介護人口を増加させるのではないかと国・自治体、医療関係者、そして私たち福祉関係者も懸念をしております。
仙台市においては行政機関が主導し、フレイル予防活動を推進しています。我々社会福祉法人大石ケ原会もその意義に共感し、地域において様々な予防活動に取り組んでおります。皆様もぜひ、これからの人生を健康的に送れるよう生活の在り方を改めて見直してみましょう。