介護施設における言語聴覚士とは
これまでも当ブログで高齢者施設におけるリハビリテーションに携わる専門職として「理学療法士」「作業療法士」の2種について詳しく触れてきましたが、今回触れる言語聴覚士は、これら2種の専門職とはまた違う側面からアプローチするリハビリテーションの専門家となります。
歳を重ねるとどうしても自然に体力や運動機能が衰えてしまいますが、それだけではなく、病気や怪我、もしくは発達上の問題などでコミュニケーション能力に支障が発生してしまう場合があります。私たち人間は「言葉」を使うことによってお互いの気持ちや考えを伝えあいながら、経験や知識を共有して生活を送っています。それが出来なくなると自分の意思を伝えられなくなり、生活に大きな支障が現れてしまいます。
「言葉」によるコミュニケーションの問題は、高齢者に多い脳卒中後の失語症、聴覚障害、またそれだけでなく、言葉の発達の遅れ、声や発音の障害など多岐にわたっており小児から高齢者まで幅広く現れます。今回紹介する言語聴覚士は、このような問題の本質・発現するメカニズムを明らかにし、対処法を見出すために検査、評価を実施し、訓練、指導、助言を行うコミュニケーションに特化したスペシャリストです。
どんな仕事をしているの?
言語聴覚士は「言語聴覚士法」に基づく国家資格です。言語聴覚士法の第2条では以下の定義が定められています。
音声機能、言語機能又は聴覚に障害のある者についてその機能の維持向上を図るため、言語訓練その他の訓練、これに必要な検査及び助言、指導その他の援助を行うことを生業とする者
「話す・聞く」という音声機能や言語機能、聴覚に障害のある方の援助を行うことに加えて「食べる」という生活行為に関して支援する専門家でもあり、こうしてみると人間が生活を行っていく上で重要な部分をサポートする職種であることが良く分かります。
ここでは「高齢者施設」での仕事の役割に特化した説明となりますが、前述したように脳卒中後の後遺症で失語・言語障害が発生した方は、その後の生活に大きな問題を抱えてしまいます。トイレに行きたい、お腹がすいた、背中が痒い、こうした簡単な訴えさえ伝えることが困難になります。
ましてや自分の考えていること、気持ち、希望などの複雑なことを相手に伝えて理解してもらうにはハードルがとても高くなってしまいます。「筆談は?」「ジェスチャーで伝えたら?」というご意見を伺うこともありますが、麻痺などの障害が併せて出現した場合には、これらのことですら困難になってしまいます。
こうした方々をサポートする活動は、言語聴覚士がひとりだけで行うものではありません。医師・歯科医師・看護師・理学療法士・作業療法士などの医療専門職、生活相談員・介護支援専門員・管理栄養士などの保健・福祉専門職などと連携しています。言語聴覚士はチームの一員として支援を行っています。
言語聴覚士の活動フィールド
言語聴覚士が行うリハビリテーションは、活動のフィールドが広いことが特徴です。それは、リハビリテーションを必要とする原因が先天的である、後天的であるなど背景がさまざまであること、また、小児から高齢者まで年代層が幅広いことが理由として挙げられます。言語聴覚士として働く現場には高齢者施設の他に病院やリハビリテーション施設、教育機関等があります。
言語聴覚士になるには
言語聴覚士は厚生労働大臣認定の国家資格であり、この資格を持っている人だけが「言語聴覚士」を名乗ることが出来ます。
言語聴覚士は、基礎的な医学の知識と音声や身体についての知識が必要な他に、言語・コミュニケーション行動に関連する医学や心理学、言語学や音声学、音響学などの専門的かつ高度な知識を身につけねばなりません。
国家試験の受験に当たっては、指定言語聴覚士養成学校(4年制大学、3年制短期大学、専門学校)で学んで、必要な知識・技能を習得することが受験条件となります。また外国の言語聴覚士に関する学校もしくは養成施設を卒業した者、外国で言語聴覚士の免許に相当する免許を得た者は、厚生労働大臣が認めた場合、日本国での受験資格を有することが出来ます。
国家試験は年1回実施されており、この試験に合格し登録を行うことで、はれて「言語聴覚士」を名乗り、各分野で活躍することが出来るようになります。
近年の高齢者福祉の分野でも言語聴覚士のニーズが高まっています。在宅福祉分野では通所リハビリテーション、通所介護、訪問リハビリテーションなど自立支援を目的とした在宅福祉サービスで言語聴覚士を配置するところが増えています。