在宅で介護をされているご家族の方からの相談で「着替えの介助に苦労している」という声をよく聞きます。朝と夜の着替え、入浴時、またはトイレの介助をする時など、着替えの機会は1日に何度もあります。介助者にとっても、大変な作業になりますよね。
食事・排泄・入浴の3つの介助は「三大介助」と言われています。これは、日常生活を送るうえで必要不可欠な要素です。排泄や入浴時、時に食べこぼしなどによって着替えを行う場合もあるため、三大介助と今回取り上げる「更衣」は同時に行われることも多く、関係が深いものです。
要介護状態になると、麻痺や筋力の低下、関節が固くなってしまう拘縮(こうしゅく)といった障害が発生することで、これまで当たり前に出来ていた更衣が難しくなる方もいます。なおさら介助する側にとってもハードルが高くなってしまいます。
1日に何度も行う必要があるだけに、なるべく楽に介助できる方が良いと思いませんか?
そこで今回は在宅介護を行う上で介助がしやすい「服」についてご紹介します。
なぜ服を着るのか
私たちは毎日「服」を着て生活しています。
服は体を守り、快適に過ごすためだけでなく、オシャレをするなど、相手や周囲に自分の想いを伝える手段にもなります。また、「どの服を着ようか」と考える楽しみもあり、生活を豊かにするうえでも大切なものです。
服の役割には大きく分けて「保健衛生的機能」と「社会的機能」の2つの機能があります。
【保健衛生的機能】
体温調節 | 暑さや寒さに対する体温調節 |
体の保護 | 虫、火、水、菌、乾燥、紫外線、衝撃などからの体の保護 |
清潔保持 | 汗や皮脂、垢、尿などの分泌液の吸収 |
【社会的機能】
職業や所属する集団を表す | 学校や職業、チームなどの制服・ユニフォームなど所属する集団や役割を表現する |
自己表現 | アイデンティティー、自己の表現、おしゃれ |
TPОに合わせる | 冠婚葬祭、ビジネスなどの儀礼の場にふさわしい着装 |
服の役割を理解したうえで着脱介助をすることが望ましいでしょう。
更衣がしやすい衣服
今回紹介する衣服のポイントは脳梗塞などによる麻痺、筋力の低下、拘縮などで要介護状態になっている方を対象としてご説明します。こうした障害をお持ちになっている方は体の動きに制約があり、痛みもある方にとっては着替えの行為自体が苦痛を伴うものになってしまいます。そのため、着替えの介助では着脱しやすい服を選ぶことが大切です。
一般的には、前開きのシャツなどが勧められています。かぶるタイプの衣類は固まってしまった首や腕を大きく動かす必要があるため介助される側、する側にとっても負担が大きくなってしまうのがその理由です。
ここで3点ほど、着替えがしやすい衣類選びのポイントを紹介します。
服選び【3つのポイント】
伸びが少ない素材の衣類は、動きが制限され負担が大きく、拘縮がある方にとって痛みや苦痛が伴います。 伸縮性があるとストレッチが効いて動きが取りやすくなります。
ウェストにゴムが使用されていると着脱しやすいです。また、裾口がゴムで絞ってあるズボンは足首で裾が固定されるメリットがあります。特に、トイレでの排泄介助で効果を発揮します。絞られていないタイプだと裾を踏んでしまうこともあり、転倒のリスクが高まります。
袖口が広く、ゆったりしたもの、肩幅が広いもの、前開きの上着は関節を大きく動かさなくても腕を通しやすいので介助がスムーズになります。
寝たきり状態に適した「浴衣」
他にも、「浴衣」が挙げられます。浴衣は寝たきり状態の方に適した衣類です。
寝たきりの方の場合、座位が取れる方と比べると介助の手間と時間が格段に多くなります。ベッドに寝ている状態で体の向きを変えたり、体を持ち上げたりする介助は本当に大変で介助する人の負担は大きくなってしまいます。
「浴衣」は左右一度ずつ横向きになって貰えれば、全身の着替えが一度で済むというメリットがあり、これはおむつ交換などの介助もスムーズになる効果も生み出します。
また浴衣は袖も幅も広いのが特徴で、腕を通しやすいこともポイントになります。
おわりに
デイサービスセンターなど、通いの福祉施設をご利用される方の中には、時にスーツを着られる男性や街に出られる装いの女性の方がいらっしゃいます。
その方々に理由を聞くと、皆さん共通して「家から外出し、人前に出るのだからしっかりした服装でいたい」「オシャレをしたい」といった理由を語られていました。
これが社会性であり、いくつになろうと心身の機能が低下し介護が必要となったとしても身だしなみを整えていたいという気持ちの表れです。
今回紹介した「服選びのポイント」は、主に介助のしやすさを中心に解説しています。
しかし、服選びは決して「着やすさ」だけが重要なのではありません。
近年は着脱しやすい服がたくさん開発されていて、腰開きファスナーや楽にボタンを留められるボタンホールなど、選択肢が増えています。習慣や好み、そしてこだわり。ひとりひとりの「気持ち」に寄り添いながら服を選ぶことも介護を行う上でとても大切なことです。