【高齢者の園芸療法】土や植物にふれる時間と家族ができること

介護施設の庭で花を植える高齢者とスタッフ

電話で母と話していると、ふだんは「別に変わりないよ」で終わる会話が、庭のつつじやプランターのミニトマトの話になると、急に長くなる。けれど最近は、腰が痛いからと庭に出なくなり、鉢植えも枯れたままになっているらしい。
「好きだったことから離れていく親」が気になったことはありませんか?
そんなときに目にするのが「園芸療法」という言葉です。どんなものなのか、家族として何ができるのか。この記事では、園芸療法の基本と、高齢の方が植物にふれるときの注意点、家でもできる小さな工夫についてご紹介します。

目次

園芸療法とは?

日本園芸療法学会は、園芸療法を「医療や福祉分野をはじめ、多様な領域で支援を必要とする人たちの幸福を、園芸を通して支援する活動」と定義しています。植物を育てる、花や野菜を収穫する、草花を飾るといった活動を、その方の状態や目標に合わせて行うもので、病院や福祉施設などで実践されています。

日本園芸療法学会は、学会が認定する「園芸療法士」の資格制度を設けています。ただし、植物を使った活動の取り組み方や呼び方は、施設によってさまざまです。

参考:園芸療法とは(一般社団法人日本園芸療法学会)

ふだんの「土いじり」との違い

趣味のガーデニングや家庭菜園は、楽しみのために自由に行うものです。これに対して園芸療法と呼ぶ場合は、一人ひとりの状態や目標に合わせて、どんな作業をどのくらい行うかを計画し、様子を記録・評価しながら進める点が異なります。とはいえ、どちらも「植物と過ごす時間」であることに変わりはありません。親が楽しんでいた土いじりを、無理のない形で続けられるよう考えることも、ご家族にできる大切な関わりです。

どんなことをするの?

活動の内容は、季節や参加する方の体の状態に合わせて組み立てられます。たとえば、次のようなものがあります。

  • 種をまく・苗を植える:小さな鉢やプランターで、座ったままでも作業できるように工夫する
  • 水やり・手入れ:毎日の水やりや、花がらを摘むといった短い作業
  • 収穫する・味わう:育てた野菜やハーブを収穫し、香りを楽しんだり料理に使ったりする
  • 飾る・つくる:切り花を生ける、押し花のしおりをつくる
  • 語り合う:季節の花や、昔育てていた作物の思い出を話す

「昔は畑でこんな野菜をつくっていた」という話から、思い出がどんどんあふれてくる方もいます。思い出を語り合うケアについては「回想法とは?」でもご紹介しています。

高齢の方の暮らしの中での意味

植物は、毎日少しずつ姿を変えます。「芽が出たか見に行こう」「水をあげなくちゃ」という小さな用事が、一日の中に役割や楽しみをつくり、体を動かしたり外の空気にふれたりするきっかけになることがあります。施設では、ほかの利用者さんやスタッフと一緒に作業することで、会話が生まれる場にもなっています。

ただし、園芸療法は病気を治すものではなく、どう感じるかも人によって異なります。土にさわるのが苦手な方や、花粉や虫が気になる方もいます。病気の治療やリハビリの内容については、主治医やリハビリの専門職にご相談ください。施設でリハビリを担う専門職の役割は「作業療法士とは」でもご紹介しています。

家でもできる、植物と過ごす工夫

広い庭や畑がなくても、植物にふれる時間はつくれます。冒頭のお母さまのように「腰が痛くて庭に出られない」という場合は、場所と道具を変えてみるのがひとつの方法です。

  • 高さのある場所で:地面にしゃがむ代わりに、テーブルの上や腰の高さの台にプランターを置き、座ったまま作業できるようにする。
  • 小さく始める:窓辺の鉢植えひとつ、育てやすいハーブや球根など、手間の少ないものから。
  • 軽い道具を選ぶ:小さなじょうろ、握りやすい園芸用具を用意し、重い土袋や鉢は家族が運ぶ。
  • 役割をお願いする:「水やり、お願いね」と任せることで、親が主役になれる時間をつくる。
  • 一緒に眺めて話す:帰省のときや電話で「花、咲いた?」と聞くだけでも、会話のきっかけになる。

体調面で気をつけたいこと

屋外での作業では、暑さと水分不足、転倒に気をつけましょう。夏場は涼しい時間帯を選び、帽子をかぶって、こまめに水分をとるようにします。高齢の方の脱水については「高齢者は脱水症になりやすいって本当?」で詳しく解説しています。

このほか、庭の段差やホースにつまずかないよう足元を片づける、土や植物にふれた後は手を洗う、手袋を使う、といった点にも気を配りましょう。持病がある方や、皮膚が弱い方、かぶれやすい方は、どんな作業なら無理がないかを主治医に確認しておくと安心です。

施設やデイサービスでの「植物の時間」

高齢者施設やデイサービスの中には、花壇や菜園の手入れ、季節の花を使った活動を取り入れているところもあります。専門の園芸療法として行っているか、レクリエーションとして行っているかは事業所によって異なるため、見学や相談のときに「植物にふれる活動はありますか」と聞いてみるとよいでしょう。好きなことを続けられる場所があるかどうかは、親が外へ出かける気持ちにも関わってきます。人とのつながりについては「高齢者の社会参加の必要性」もご参考にしてください。

まとめ/「好きだったこと」を手放さないために

園芸療法は、その方の状態や目標に合わせて、園芸を通して暮らしを支える活動です。病気を治すものではありませんが、水やりや収穫といった小さな役割が、毎日の楽しみや人との会話のきっかけになることがあります。ご家族にできるのは、親が好きだった園芸を、体に合った形で続けられるように一緒に考えることです。

「腰や足が弱って、好きな庭仕事ができなくなった」「家にこもりがちで、楽しみが減っている」。そんな変化に気づいたら、体の状態に合った過ごし方や、楽しみを続けられる通いの場について、介護の相談窓口に聞いてみることもできます。親が好きだった花や野菜の話を伝えるところから始めてみてください。

親の「楽しみが減ってきた」が気になったら
社会福祉法人大石ケ原会の「大石原苑介護支援センター・南吉成地域包括支援センター」(仙台市青葉区)では、ご家族からの介護の困りごとのご相談をお受けしています。庭仕事ができなくなった親が、好きなことを続けられる通いの場は近くにあるかなど、気になることを聞いてみてください。
▶ 介護の相談窓口(大石原苑介護支援センター)はこちら

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