【高齢者の音楽療法】認知症ケアでの取り入れ方と家族にできること

デイサービスで音楽を楽しむ高齢者とスタッフ

久しぶりに実家へ帰ると、テレビの歌番組から昔の流行歌が流れていた。最近は口数が減り、こちらの話にも「うん」としか返さなくなった父が、小さな声で歌詞を口ずさんでいる。
「昨日のことは覚えていないのに、歌は出てくるんだね」と、驚いたことはありませんか?
介護の情報を調べていると目にする「音楽療法」。言葉は聞いたことがあっても、何をするものなのか、家族に何ができるのかは、意外と知られていません。
この記事では、音楽療法の基本と、認知症ケアでの取り入れられ方、ご家族が家で一緒に音楽を楽しむときの工夫についてご紹介します。

目次

音楽療法とは?

日本音楽療法学会は、音楽療法を、音楽のもつ生理的・心理的・社会的な働きを用いて、生活の質の向上などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用することと定義しています。歌う、聴く、楽器を鳴らす、リズムに合わせて体を動かすといった活動を通して行われます。

ポイントは「目的と計画があること」です。ただ音楽を流すのではなく、その人に合わせた目的をもって、計画的に音楽を用いる点が特徴です。日本では、日本音楽療法学会が音楽療法士の認定を行っており、医療機関や高齢者施設などで活動している音楽療法士もいます。

参考:一般社団法人日本音楽療法学会 公式サイト(トップページに音楽療法の定義を掲載)/音楽療法士とは(同学会)

「みんなで歌う時間」との違い

デイサービスや施設では、みんなで童謡や懐かしい歌を歌うレクリエーションの時間がよくあります。こうした時間も、楽しみや人との交流の場として大切なものです。一方、音楽療法は、上の定義にあるとおり音楽を「意図的、計画的に」使うものです。学会は、音楽療法士を「働く場所により、医療、福祉、教育などの専門職であると同時に、『音楽の専門家』」と説明しています。施設によって「音楽療法」と「音楽レクリエーション」のどちらを行っているかは違うため、気になる場合は内容を具体的に聞いてみるとよいでしょう。

どんなことをするの?

音楽療法の内容は、参加する方の体の状態や好み、目的によってさまざまです。一般的には、次のような活動が組み合わされます。

  • 聴く:若い頃によく聴いた曲や、季節の歌を一緒に聴く
  • 歌う:なじみのある歌を、無理のない声の高さで歌う
  • 鳴らす:鈴やタンバリン、太鼓など、扱いやすい楽器でリズムをとる
  • 動く:座ったまま手拍子をする、曲に合わせて腕や足を動かす
  • 話す:曲にまつわる思い出や、その頃の暮らしについて語り合う

一対一で行う場合もあれば、数人のグループで行う場合もあります。曲をきっかけに昔の思い出を語り合う時間は、「回想法とは?」でご紹介している、思い出を語り合うケアとも重なる部分があります。

認知症ケアで取り入れられているのはなぜ?

冒頭のように、「最近のことは忘れがちでも、昔の歌は覚えている」という場面に出会うご家族は少なくありません。音楽は、言葉でのやりとりが難しくなってきた方とも一緒に楽しみやすく、表情や声、手拍子などで気持ちを表すきっかけになることがあります。そのため、認知症の方へのケアの一つとして、音楽を取り入れる取り組みが行われ、研究も進められています。

ただし、音楽療法は認知症を治す方法ではなく、受け止め方も人によって大きく異なります。同じ曲でも、楽しそうにする方もいれば、つらい時期を思い出してしまう方もいます。認知症の診断や治療については、主治医や専門の医療機関にご相談ください。「音楽で症状が良くなる」とうたう商品やサービスを見かけたときも、すぐに信じず、主治医やケアマネジャーに相談してから考えると安心です。

家で一緒に音楽を楽しむときの工夫

専門の音楽療法でなくても、ご家族が親と一緒に音楽を楽しむ時間をつくることはできます。「療法」と構えずに、親子でくつろぐひとときのひとつとして、次のようなことを試してみてください。

  • 親が若い頃の曲を選ぶ:親が10代〜30代の頃に流行った歌や、ふるさとの歌、よく口ずさんでいた歌を探してみる。
  • 音量は控えめに:大きすぎる音は疲れや不快感のもとに。聞こえにくい様子があれば、音量を上げるより、近くで聴く・歌詞カードを用意するなどの工夫を。
  • 歌わなくてもいい:聴いているだけ、指でリズムをとるだけでも十分。上手に歌うことや、最後まで歌うことを求めない。
  • 表情をよく見る:笑顔が出るか、落ち着かない様子になるか。嫌がるそぶりがあれば、すぐに別の曲に変えるか、止める。
  • 思い出話につなげる:「この歌、どこで聴いてたの?」と問いかけ、話してくれたら、正しいかどうかにこだわらずに耳を傾ける。
  • 短い時間で区切る:疲れが出る前に終える。体調がすぐれない日は無理をしない。

話の内容が前と違っていても、訂正せずに「そうだったんだね」と受け止めることが、安心して話せる雰囲気につながります。認知症の方との会話のコツは、「認知症の方への接し方のポイント」でもご紹介しています。

体調面で気をつけたいこと

歌ったり体を動かしたりすると、思った以上に息が上がることがあります。心臓や呼吸器の病気がある方、むせやすい方は、どのくらいの活動なら無理がないか、あらかじめ主治医に確認しておくと安心です。歌の途中で咳きこむ、息苦しそうにする、顔色が悪くなるといった様子があれば、すぐに中断してください。

デイサービスや施設での音楽の時間

介護保険のサービスの中にも、音楽にふれられる場があります。デイサービスや高齢者施設では、歌や楽器を使ったレクリエーションを行っているところがあり、音楽療法士が関わっている事業所もあります。どんな活動をしているか、どのくらいの頻度かは事業所ごとに異なるため、見学や相談のときに「音楽の時間はありますか」と具体的に聞いてみるのがおすすめです。

家にこもりがちな親にとっては、誰かと一緒に歌う時間そのものが、外に出て人と関わるきっかけになることもあります。デイサービスの一日の流れは「デイサービスって何をするところ?」、人とのつながりについては「高齢者の社会参加の必要性」もご参考にしてください。

まとめ/「好きな歌」から始まる、親との新しい時間

音楽療法は、音楽の働きを意図的、計画的に用いる取り組みで、認知症の方へのケアの場でも実践されています。一方で、受け止め方は人それぞれで、病気を治すものではありません。ご家族にできるのは、親が好きだった歌を一緒に聴き、その表情に気づくこと。会話が減ってきた親と過ごす時間を、少しやわらかくしてくれるかもしれません。

「家では一緒に過ごす時間が取れない」「親が楽しめる場所が近くにあれば」と感じたら、親に合いそうな通いの場や、音楽にふれられるサービスを、介護の相談窓口で一緒に探してもらうこともできます。親の好きな歌や、歌っているときの様子を伝えるだけでも、話の糸口になります。

親に合うサービスや通いの場について、誰に相談すればいいか迷ったら
社会福祉法人大石ケ原会の「大石原苑介護支援センター・南吉成地域包括支援センター」(仙台市青葉区)では、ご家族からの介護の困りごとのご相談をお受けしています。近くに歌や音楽の時間があるデイサービスはあるか、口数が減ってきた親にどんな過ごし方が合いそうかなど、気になることを聞いてみてください。
▶ 介護の相談窓口(大石原苑介護支援センター)はこちら

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